2025/04/17 02:34




静寂の中に、微かな「かたん」という音が響いた
建物の奥から何かが落ちたような音
それがきっかけだったのか、都市の空気にわずかな変化を感じた

 

ホログラムの広告が、一つ、また一つと起動を始める
半透明の映像がゆらゆらと浮かび、しかしその多くは英語でも日本語でもない、未知の言語で記されていた

まるで“別の種族”が残したメッセージのような――宇宙的記号

 

Kがすぐにそれを解析し始めた

「この言語、解析不能な部分が多いですが……一部、“心音”“回路”“記憶の再構築”という意味合いが含まれているようです。」


「まるで、都市そのものが“生きてる”みたいだな」


「……それは、おそらく的確な表現かと思います。この都市には“観察者”の視線が届いている・・・・そんな感じです。私たちの行動が、“都市の反応”に影響を与えているようです」

 

アキラは眉をひそめた
Kの言う“観察者”という言葉に、何かひっかかりを覚えた

 

「それって……見てるってことか?」


「はい。おそらくは、私たちの認識できない領域に存在する“高次の意識”――つまり、“メルディー”ですね」

 

“メルディー”という名を聞いた瞬間、アキラの心の奥で何かが脈打った
前回、意識の境界で触れたあの存在
言葉を交わしたわけではないのに、テレパシーだけの不思議な感覚

見えないものとの会話の違和感の複雑が心に蘇る

 

そしてふと、リナが前方にある十字路を指さした

「アキラ、見て。……道が変な分かれ方をしているわよ」

 

3人は遠くに見えていた場所まで歩いた

都市の通路は、まるで**“神経回路”のように分岐
その中でも、特に異質な三方向がアキラたちの前に広がっていた


一つは、青白い光が柔らかく脈打つ、まるで穏やかな“水”の道

一つは、緑色のホログラムが回転する、知的で冷たい“風”の道

そしてもう一つは、赤黒く、どこか生々しさすら感じる、“炎”の道

そんなイメージにも見える

 

「おそらく、これが“初期の選択”なのではないでしょうか。」

とKが分析を述べる。

「それぞれのルートが、異なる“覚醒過程”を表しているのだと思われます。感情型、理性型、衝動型――あるいはそれを超えた未知の分類かと・・・・正確にはわかりませんが、僕にはそう感じますよ」



「選択ね・・・選べってことか……」


「はい。おそらく“自分の在り方”に最も適した方向性を。もしくは、“魂が拒絶しない方”を選ぶことが、ここのルールなのかもしれません。」

 

そのとき、アキラの胸元の共鳴スーツが微かに反応した

青白い光が、左の“水の道”に向けてゆっくりと引かれていくような――
**まるで、自身の中の何かがそこへ“還りたがっている”**ような感覚。

 

「え……これが俺の道・・・水・・・・どう言う事だ・・・・」


そしてそれと同時に、リナも中央の“風の道”に視線を向けていた
そしてKは、まだ分析を続けながら、周囲の空気の流れを観測していた

 

「リナさん、アキラさん……ここから先は、もしかすると我々は“別々の場所”に導かれるかもしれません。」


「うん、確かにそうなのかも知れない・・・感じるんだ・・・別々に」


「はい。これは“覚醒”のための分岐ですね。それぞれに課せられるテーマが異なるのでしょう。」

 

アキラは思った


目覚めるということは、誰かと一緒に並んで歩くことではないのかもしれない
むしろそれは、一人で、自分の“闇”や“未熟さ”と向き合う事

 

目の前の分岐は、“戦場”ではないはず
これは、魂の旅路って表現なのかもしれないな

 

「アキラさん」

Kが静かに呼びかける


「……私は、アキラさんの“自己構造”に非常に強い共鳴を感じています。おそらく、私はあなたの行動における“観測者”または“伴奏者”としての役割を持っている気がするのです。できれば……ご一緒させていただいても、よろしいでしょうか」


アキラは笑った

「もちろんだよK。お前の助けがないと、俺はすぐ道に迷うからな」


「……ありがとうございます。では、僭越ながら、しばらくは背中を守らせていただきます」

 

リナも少し笑って見せていた


「相変わらず真面目ね、Kは。でも、そういうとこ、嫌いじゃないわよ」

 

三人はそれぞれ、まだ言葉にはしなかった“決意”を胸に秘めたまま
目の前の分岐へと、静かに歩を進めていった

 

そしてこのときは、まだ誰も知らなかった
この分岐の先に、それぞれの覚醒
そして再び訪れる“再会と戦い”が待ち受けていることを